Eirun Last Code

プロローグ

 ——アレは、なに?

 少女は、青い瞳でソレを追った。
 大空を駆ける、【真紅の巨大戦闘機】
 天より舞い降りたソレは、およそ兵器と称するには派手すぎた。
 アルファベットのAのような全体像(フォルム)は、兵器特有の理論やモジュールを感じさせない。底面部には二門の砲頭。紅の装甲板が陽光を反射して輝いている。

 まるでSFアニメの一カットを、そのまま現実で見させられているような……そんな
 不思議な感覚を少女は覚えた。

 ——どうして、そこにいるの?

 ここは、化物うごめく戦場の爆心地だ。
 人の手に余る。人類の英知も及ばない。
 少女だけに押しつけられた、腐った現実の底の底……誰も下りることが敵わない。誰も少女を救いあげてくれない地獄のはず。しかし、彼はどこからともなく現れ、ここへ来た。

 ——どうして、逃げないの?

 怪物なのだ。三十メートル近い全長をした。人なんて一掴みで何人も捉えられてしまう。
 人間をリンゴみたいに頬張り、骨肉を租借し、旨そうに嚥下する。
 銃弾でも、地雷でも、ミサイルでも止められない。
 少女が対峙しているのは、人類を食物連鎖の玉座から引きずり下ろした、半ば反則じみた怪物なのである。
 それを前にして、何故、あのパイロットは逃げないのか。

 ——あなたは、いったい誰?

 虚空を仰ぐ怪物——身体はビルよりも大きい。数両分の列車よりも長く、太い腕が八本。人を模した醜悪な顔面を二つ持つ。
 少女を、【人類の最終兵器】をも制した敵は、天空に座す戦闘機を睨め上げる。
 その絵面はとてもヒロイックで、幻想的だった。その絵を誰よりも近くで見た少女は、絶望の闇に一筋の光を見る。

「あなたはわたしを……助けて、くれるの?」

 少女はか細い声でそう聞く。返ってきたのは少年の優しい声だった。

 『ああ。俺の全部で君を助ける。だからもう泣くな』

 彼女は後に知ることになる。
 この少年こそ、少女の闇を切り裂く、本物の勇者だということに。